ブータンという国でスポーツの指導に携わらせていただいて数年。今になってようやく知ったことがあります。
それは、「家庭科の必要性」です。
きっかけは、教え子が頻繁に体調を崩すことです。ちょっとした体調不良みたいに書いていますが、状況はかなり深刻です。
ある教え子は、まだ16歳なのにすごく頻繁に体調を崩すんです。多い時では1週間の半分も練習に来られません。でも決して、柔道が嫌いだから来たくないわけではないんです。ずっと面倒を見ている子なので知っています。腹痛がひどくて外に出られないんです。消化性潰瘍です。ずっと。
別の23歳の教え子も、同様です。消化性潰瘍です。彼も柔道が好きで、熱心に筋力トレーニングに取り組んでいる子です。彼はここ2ヶ月ほど、ほとんど練習に来ていません。腹痛が酷すぎて、深夜にも起こされるようです。十分に寝ることもできないなんて、どれだけしんどいんだろう。
病院に行っていますし、薬は飲んでいますし、食事内容に気を遣うように指導もしています。でも一向に良くなりません。
そりゃ、小さい時からずっと消化器官に負担をかけ続けていますから。そう簡単に治るものではないんでしょう。
これの解決はすごく難しいんです。
というのも、この国には家庭科がないので、栄養素や食事バランスなんてものほとんどの人が知りません。だから脂や香辛料ガンガンの食事が当たり前なんです。消化器官に強い負担がかかっているなんて、思いもしていないでしょう。
かと言って、教え子たちに栄養についての指導をすればいいという問題でもありません。家庭の食事を変えるには、家族の理解が必要です。でも食事を作っている親世代は、自分がその食事で当たり前に育ってきています。そんなことを突然言われても、理解できないでしょう。
知識としてわかってもらえたところで、別の問題もあります。香辛料の味が大好きなブータン人がその味から離れるのは、かなり難しいでしょう。日本人が醤油離れするような感覚かもしれません。消化器官への負担の少ない代用品に変えようにも、金銭的な問題があります。
というわけで、食生活の問題を解決するにはすごく時間がかかります。
なんとか教育省の理解を得られて国で家庭科がはじまったとしても、家庭レベルに浸透するのは子どもたちが大人になってからでしょう。それも全ての子どもが理解して、大人になって食生活を変えるとは思えません。変わるのは一部だけでしょう。だから全体が変わるのはもっともっと時間がかかるでしょう。栄養素や食事バランスについての知識を広めていって、少しずつ食に気をつかう家庭を増やしていくしかないんです。
そんなことを考えながら、やっと気づいたんです。家庭科の偉大さに。
正直言って、家庭科を軽視する日本人はかなり多いでしょう。僕自身も進学校に通っていたため、主要科目以外はめっちゃ軽視していました。家庭科なんてその代表でした。だって「食事バランスに気をつけないと身体を壊す」なんて、当たり前のことですもん。勉強しなくても知っていますよ。
でもこの「当たり前に知っている」ことが、どれだけすごいことか。やっと知りました。歴史ある日本の教育の賜物です。
そんな話です。長々と書いてしまい申し訳ありません。今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
「外国でスポーツ指導をしたら、家庭科の偉大さを知った」という話でした。
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