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『日本の柔道 フランスのJUDO』
※読書感想文です。真面目な話なので面白くないです。めちゃくちゃ固い話です。カチコチです。歯が砕けそうなくらいかたいです。今回は柔道の指導として、一スポーツの指導者として、この本を読んで考えたことを書き記させてください。
この本は、日本の柔道とフランスの柔道の両方を経験した柔道家の溝口紀子さんが、日本の柔道界の問題について書いた本です。
柔道界の暴力の支配や指導者による生徒やクラブの私物化、ジェンダー問題などを基にした「勝利偏重主義」や組織への批判や、日本柔道とフランス柔道の数値を基にした比較や考え方の違い、日本とフランスの制度の違いについて書かれていました。
僕は本を読む時も人の話を聞く時も、すべて鵜呑みにしないようにしています。これは、著者や話し相手のことを信用していないというわけではありません。ただ、人の意見や考えにはどうしてもその人の主観が入ってしまうものだと思っているので、100%それがすべてだとは思わないようにしているという話です。
今回も同じです。この本では、現在の日本柔道の勝利偏重主義に対する批判や柔道界の不祥事、著者の思いの丈について書かれています。これを読みながらも、「だからつまり現在の日本柔道のやり方は変えなければいけないもの」だと決めつけているわけではありません。そもそも僕自身はまだまだ知らないことだらけなので、この本からの情報だけで何かを決めつけることはできません。肯定も否定もできるレベルではありません。
とはいえ僕は、日本の柔道を経験してきて、現在はブータンという国で指導者をしています。胸に刺さるものや考えさせられることがたくさんありました。
そんな話をさせてください。
例えば、
『日本の柔道選手はよく、「練習量は絶対に外国人選手には負けていない。日本のほうが絶対量が多い」と自負して海外遠征から帰ってきます。』
その通りだと僕は思いました。
著者によると、この考えは、
『外国人選手が死にもにぐるいの練習をこなしているのを見ていなかっただけ』
であり、
『柔道だけの練習量は世界で一番かもしれないけれど、練習の質や量をトータルで考えたら、外国人も日本人も差がない』
だそうです。
また、こうも書いてありました。
『日本はとにかく、同じことをひたすらやりたがる。…質に関しては、日本人は無頓着です。練習量が多くなれば当然、消耗するし怪我も多くなります。意識するべきなのは、練習の質を多様にし、バランスよくトレーニングすることで、ケガのリスクを軽減して効果的に強化することです。』
これを読んで、ドキッとしました。まさにしばらく前の自分のことを言われているようでした。
僕自身、絶対的な練習量をこなして、自分の柔道を磨いてきた自負があります。それによって、センスのない自分でもある程度強くなれたと思っています。だからブータンに赴任した当初、自分の教え子にも同様に練習量を求めて、同じことをひたすらやらせようとしました。
それはただただ教え子を強くして、結果を出そうという考えではありませんでした。ある程度強くなったら、初めてわかる柔道の楽しさがあると僕は思っています。全力の駆け引きの中で勝負をする楽しさを、子どもたちに知ってもらいたかったからです。僕自身、その柔道の楽しさに魅了されています。
ひたすら繰り返す練習で僕自身が育ってきたのは事実で、これによって強くなるのも事実だと思います。でも思ったのは、「これだけが正解ではない」ということです。
実際に僕が絶対量を追求しようとした時、ブータンの教え子の中にはついてこられない子が出てきました。そこで僕はこの練習をやめました。
この練習方法は間違いではないけど、この子たちにはあっていないと思いました。
『フランスの選手は日本人のように何度も繰り返す練習は苦手なので、いかに短い時間で効果的に集中してできるか、そのためには練習にも面白さがないと伝わらないのです。』
これこそ、僕がしなければならないことです。
日本の柔道は世界のトップレベルだと僕は胸を張っていえます。めちゃくちゃ強いです。層も厚いです。とんでもないレベルです。だけどだからと言って「それが唯一の正解であって、自分が日本でしてきた練習をそのままブータンに持ち込めばいい」というわけではありません。
いくら強い選手が育っても、大半がリタイアして柔道を嫌いになってしまったら、それは正解とはいえないわけです。それもこの本で批判されている「勝利偏重主義」であって、変えなければいけないものかもしれません。
ここブータンではなおさら、「勝利偏重主義」は通用しません。
現在僕は、「ひたすらの練習」はさせていません。激しい練習は細かく区切って、頻繁に休憩を挟んでいます。練習量は「彼らが全力でできるだけ」を意識しているので、日本柔道の練習と比べると圧倒的に少ないです。その分基礎練習を多くしています。それも単調にならないように、できるだけ毎回新しいことを加えながらやっています。
とはいえ、自分の中で納得できていない部分もありました。「これだけの練習量で、世界で戦える選手に育てられるんだろうか」「本当にこれでいいのか」とモヤモヤした気持ちを抱えています。
だけどこの本を読んで、今後は練習の質を多様にしようと考えています。具体的には、フランス柔道に習い、柔道にこだわらずサッカーや陸上トレーニングなど、多様な運動を取り入れようと思います。とはいえフランス柔道をただただ真似るわけではなく、まずはやってみようという考えです。フランス柔道のやり方がブータンの、現在の彼らにとっても正解だとは思っていないので。そもそも段階が違いますし。
もう一つ、ハッとさせられたことがあります。
『外国人選手の打ち込み(相手を投げる寸前までの一連の動作を反復する練習)が下手くそだと日本人選手は思っているかもしれませんが、なぜこういう下手くそな打ち込みをしているかわかりますか?実は、下手ではなく、形にこだわらず、試合のイメージを常に考えて打ち込みしているのです。』
これは著者がフランスの柔道家デコス選手にインタビューした際の言葉です。
僕は教え子たちの基本を作るにあたり、形を意識して教えています。反復練習では特に。しかし未だに形に違和感がある選手が多く、なかなかうまくいっていません。力の伝え方もうまくありません。でも今回思ったのは、「僕が形にこだわりすぎるあまり、彼らが伸び悩んでいるのではないか」ということです。
僕は正しい形を作って、きれいな打ち込み練習をするのが正解だと信じて教えていたわけです。だけどこれも、自分が歩んできた日本の柔道にこだわりすぎているのかもしれません。
大切なのは「ただただ正しい形を作ること」ではなく、「形にこだわらず実践をイメージして練習すること」なのかもしれないと思いました。
もちろん基本は大切です。でもひたすら形にこだわることが正解とも限らないことに気づきました。
実際それがブータンの教え子たちにあっているのかは、わかりません。だけどまずはやってみることにします。僕の声かけの方法を変え、彼らの意識を変えられるような努力をしてみます。
ブータン柔道は2010年にはじまり、まだ12年という短い歴史しかありません。柔道チームは2つで、人口は決して多くはない。柔道の競技者が少ないので、すべての柔道キッズと関わることができていてます。次の指導者も今現在育てています。今はまだ、土台を作っている段階です。
だからきっと僕の今の指導によって、ブータン柔道の今後が決まります。やり方によっては「勝利偏重主義」を根付かせることにもなるでしょう。
今はまだ、いくらでも方向転換ができる。自分の責任の重さにあらためて気付かされました。
今後、日本柔道のような圧倒的な層の暑さを目指して練習をするべきなのか、それともフランス柔道の多様性を真似るべきなのか。それともどちらでもない、ブータンにあったやり方を模索していくべきなのか。どのような方法がブータンの教え子たちに、また今の段階にあっているのか。ひたすら考えて試行錯誤していきます。
最後にこの本について、です。すごく考えさせられることが多かったです。日本の外で柔道の指導をしている僕にとってというのはもちろんありますが、それだけではありません。組織のあり方やスポーツ界の問題について、考えさせられることが多々ありました。柔道に限ったことではありません。
ぜひ読んでいただきたい、おすすめの本です。
こんな話を絵日記ブログでするのは全くおかしな話ですが…
たまには真面目にこんな話もさせてください。記録として。本来の僕の仕事は柔道指導者なので。それっぽいこと書いてみました。
そんな話でした。最後まで読んでいただきありがとうございました。
実はブータンは楽天やAmazonでものを購入して届けることは、基本的にできません。でも書籍だけは届けることができるんです!
読書が好きな僕にとっては嬉しいことです♪
読書の秋。まだ秋というには暑い日もありますが…。先取りです。♪
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