不公平なオリンピックだった疑惑について
来日した外国人選手団が感じたこと



今回のオリンピックについて、『不公平』だったのではないかとの意見が出ているようです。
それについて、実際の様子と感じたことをまとめてみました。

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今回の東京オリンピックで、日本史上最多である27個の金メダル、さらに銀メダル14個銅メダル17個を合わせた計58個のメダルを獲得し、輝かしい成績をおさめました。


諸外国と比べた順位はこちら。

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金メダル獲得数世界3位と、素晴らしい結果でした。


しかしながら今回のオリンピックについて、さまざまな条件が諸外国にとって不利であり、不公平なオリンピックであったという意見が出ているようです。


これについて実際に外国のオリンピックチームの一員である僕がどう感じたのか、紹介します。



今回の記事は主に、僕たち「ブータン代表」にとってはこうだったという話です。

当然、それぞれの国やチームによって異なります。


また、僕の教え子の参加競技である「柔道競技」のことが主な内容になります。





 

不公平と言われる理由

【事前準備が十分にできない】

通例であればオリンピックの際、強豪国は選手村とは別に選手をサポートする「前線基地」を置くが、今回はそれができない

事前キャンプの多くが中止となり、外国人選手にとって猛暑対策時差調整が難しくなる

厳しい入国制限により、柔道やレスリングなどの「練習要員」の帯同が許されておらず、入国後の行動制限により自由な練習ができない

そのため選手は選手村内で、感染症対策をしながら孤独に調整するしかない



【外国人選手への精神的ダメージ】

バブル方式での厳しい行動制限は、ワクチン接種が進んで日常が戻りつつある欧米の選手にとっては、苦痛である可能性が高い

制限を守れず外出した場合、資格停止になってしまう。
また、万が一感染症に感染しても、試合に出場できない

こんな不安の中で、心身のコンディションがいいはずはない



上記の理由で、今回のオリンピックが不公平であったという意見が出ているようです。



実際はどうだったか

【入国から競技本番までの流れ】

日本でのコロナウイルス感染拡大は、おさまっているとは言えない状況でした。

そのため、日本での滞在を最小限に抑えるために、試合本番の数日前に来日するという国は少なくありませんでした。


僕らブータンチームの場合は、他国よりは早めの入国となりました。

7月13日に到着し、競技当日までを選手村で過ごすことに。


選手村到着後は、試合当日に向けての調整をはじめます。


僕の教え子が出場する柔道競技60kg級は、大会初日である7月24日でした。

約10日間、試合に向けた調整をします。


柔道競技の練習会場である講道館(東京都千代田区)は、7月19日から使用できます。

13日から18日は、選手村内にあるフィットネスジムでトレーニングを行いました。


僕の教え子は減量が必要でしたが、それに必要な設備は十分にありました。

詳しくは後ほど。



上記の流れですが、

ブータンは早めに入国ができ、時差と気候の差が大きくないこともあり、順調に調整に入れました。



ただ、ギリギリに入国した国は、また別かなと思います。

特に時差が大きく気候が異なる国の選手は、日本の時間や気候に順応するのに時間を要します。

そんな国の選手がギリギリに入国したとなると、コンディションが整う前に試合当日を迎える恐れがあります。 


【選手村での行動制限】

確かに、選手村からは基本的に出られません。

制限は厳しいです。
 

詳しくはこちらの記事へ↓




この記事にも記した通り、抜け穴はあるものの、選手村に入ってきている関係者は、全員がコロナウイルスをもっていないという前提になっています。

そのため、選手村内は自由に出歩くことができます。


そして選手村内には、フィットネスジム病院(整形外科や歯科、内科などあらゆるもの)、メニューの豊富な食堂、レインボーブリッジや東京タワーの見える芝生広場、卓球やダーツなどを楽しめるレクリエーションエリアなど、設備は充実しています。


そこまで縛られているという感覚はなく、苦痛と感じるとは思えませんでした。

強く孤独を感じることもないかなと思います。


また、感染症対策に関しては十分な配慮がなされていたため、コロナウイルスが気になって集中できないなんてことにもなりにくいと思います。


僕が感じた主観の話ですが。



【試合に向けた調整】

先ほど軽く触れましたが、僕の教え子は減量が必要でした。
 

体重調整の必要な選手にとって、試合に向けたメインの調整はこれになります。

幸いブータンは日本との時差は少なく気候に大きな差がないため、スムーズに調整に入ることができました。


試合当日までの前半は、選手村内のフィットネスジム減量のためのトレーニングをしました。


午前と午後の2部。

午前はランニングを中心に1時間半。

午後はウェイトトレーニングランニング、そしてサウナによる減量です。


これには驚いたのですが、フィットネスジムにはサウナがありました。
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それも男性用だけで3部屋も


ボクシングや柔道、レスリングなど、減量を必要とする選手のみが利用できるという制限のもと、貸し出されていました。


ランニングマシンはかなりの数が並んでおり、不便に感じることはありませんでした。
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また、フィットネスジムの室内はクーラーが効いており、施設内では気候による被害を受けることはありません。


フィットネスジムには十分な数のトレーニング器具ストレッチスペースがあり、申請すれば個別に部屋を借りてのトレーニングもできました。
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トレーナーさんもおり、決して悪い環境ではありませんでした。
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食事に関しては、十分な栄養摂取が可能です。

さまざまな文化宗教に配慮した料理や、バラエティ豊かなメニューが用意されていました。
 

詳しくはこちらの記事へ↓




うちの選手は減量のための食事制限が必要でしたが、当日に向けて少しずつ調整していくことで、公式計量は無事通過できました。



選手村の設備に関しても食事に関しても、不利になる要因はなかったように感じます。



【試合までの練習環境】

当初ブータンオリンピックチームは、箱根にある星槎箱根仙石原キャンパスで事前キャンプをする予定でした。

しかし、飛行機の便の欠航が相次いだことや感染症対策により、競技開始10日前の入国となりました。

そのため、試合日まで日数のあるアーチェリー選手だけが箱根へ。

他の試合日が近い選手は、直接選手村に入ることになりました。


もしコロナウイルスの感染拡大がなければ、早めに日本に入り、事前キャンプを行えたかもしれません。

そこは残念です。


とはいえ、ブータンと日本の時差はたったの3時間。

また、気候に大きな違いはない(湿気がある分、同じ時期に比べると暑くは感じます)ため、気候や時差によって不利だとは感じませんでした。


選手村到着後、6日間は選手村内で減量のためのトレーニング。

その後は練習会場での本格的な柔道の調整です。


今回のオリンピックでは入国制限が厳しく自国の練習要員の帯同は許されていませんでした。

柔道は相手がいなければ練習ができない競技です。

出場選手が1人しかいない国にとっては、大きな問題になります。


しかし柔道競技の練習会場である講道館においては、練習相手をするためのスタッフが用意されていました。

また、規模の小さな国の練習会場は同じフロアにまとめてあり、お互いが望めば合同でトレーニングができるよう配慮がされていました。


自由な練習ができないと言える状況ではありませんでした。



しかし一つ、気になることも。


練習時間はどの国も、1日1時間15分と限られていました。

既に時間割が決められており、1日のうちのどこかの枠で予約をするというシステムです。


最終調整ということで、軽く体を動かす程度の調整をする場合は問題ありませんが、体重調整も兼ねてしっかり練習をしたい選手にとっては、十分とは言えませんでした


その点で言うと、選手村に入っていない柔道の日本代表チームは、練習時間に限りはありません。


練習時間に縛りがあるという点において、日本人選手と外国人選手の間で少しの差はできてしまうかなと思います。



まとめ

『事前準備が充分にできない』について 

【事前キャンプ中止により猛暑対策や時差調整が難しい】

僕たちブータンチームは気候や時差に大きな差がないため、事前キャンプがなくともすぐに日本の環境に順応できた。

しかし、大きな時差があり気候が大きく異なる国で、なおかつその国が大会ギリギリの日程で来日した場合は、十分にコンディションを整えられない可能性がある。

これはコロナウイルスの感染拡大を受けて多くの事前キャンプが中止になったことが大きな要因。

この点においては日本人選手にはこの問題がないため日本が有利であったと言える。


【練習要員の帯同が許されておらず、十分な練習ができない】

柔道競技においては、日本人の練習相手用スタッフが用意してあった。

また、他国と合同で練習できるような配慮もされており、この点においては日本人選手が有利とはいえない。

ただ、外国人選手の練習時間が限られているという点においては、日本人選手が有利になってしまう可能性がある。



『外国人選手への精神的ダメージ』について

【バブル方式による精神的苦痛】

選手村内の設備の充実により、縛られているという感覚はなく、精神的苦痛は感じにくい
よって、日本人選手が有利とは言えない。 


【ウイルス感染による出場停止の恐れから、不安でコンディションが整わない】

感染症対策のための充分な配慮がされており、選手村内においては不安を感じにくい

(もちろん個人差はありますが)
そもそもウイルスによる不安という点に関しては、日本人選手も同様に感じる不安であり、不公平であるとはいえない。



感想

ここからは僕の勝手な感想です。

『事前キャンプ中止により猛暑対策や時差調整が難しい』『十分な練習ができない』という2点においては、条件によっては日本が有利になるという結果でした。


しかし、「地の利」による差が生じてしまうのは、今回のオリンピックに限ったことではないです。

日本以外で開催された場合は、何かしらの点において日本が不利になります。

もはやこれは避けられないこと。オリンピックの性質の一つかもしれません。

ただ今回はコロナ禍での開催ということで、「地の利」が通常よりも大きく働いたということはあるかもしれません。


実際に新型コロナウイルスの感染を懸念して、オリンピックへの出場を辞退するトップ選手もいたようです。 



ですが、今回のオリンピックが、日本のみならず世界中の人に感動を与えたことは事実です。


また、全てのメダリストが今回のメダル獲得に向けて、並々ならぬ努力を続けたことも事実です。


今回のオリンピックでの日本の功績は、その努力の上に成り立っています。



不公平なオリンピックだったと後になって言うのではなく、素直に今回の輝かしい成績を喜んでいいのではないかと思います。


また、最大限の配慮をした上でオリンピックを開催し、終了したことを誇っていいのではないかと思います。




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